大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和30年(ネ)314号 判決

事実

控訴人(加藤)は、本件約束手形は控訴人が当時設立過程にあつた大倉部品株式会社の代表取締役として同会社を代表して振出したものであるが、右会社は遂に設立せられずに終つたから、控訴人として右手形上の責を負うべき理由はないと主張した。

被控訴人(江戸川化学工業株式会社)は、本件手形振出当時に大倉部品株式会社なる会社は存在しなかつたのであるから、これは控訴人が個人として振出したものと認むべきであり、仮りに然らずとするも右会社は設立に至らなかつたので、民法第百十七条の趣旨により、控訴人が個人として責を負うべきものであると述べた。

理由

本件手形振出当時大倉部品株式会社が存在しなかつたことは控訴人も認めているが、控訴人が特に同会社の名を借りて個人として振出したものであるとの証拠のない限り、単に右会社不存在の事実のみを以て控訴人個人の振出したものであるとする被控訴人の主張は許されないけれども、本件手形は控訴人が右会社を代表して振出したものであり、しかも同会社は遂に設立に至らなかつたことは控訴人の認めるところであり、また仮に控訴人主張のとおり同会社が当時設立過程にあつて控訴人は結局その発起人団体を代表して本件手形を振出したものとしても、控訴人が本件手形振出について右団体の承諾ないし追認を得たことは控訴人の毫も主張立証しないところであるから、控訴人は民法第百十七条、手形法第七十七条第二項、第八条の趣旨により、無権代理人の責任に準じて自ら本件の振出人としての義務を負わなければならないものと認定するを相当とし、本件において控訴人に手形上の責任はないという主張は当裁判所の採らないところであるとして控訴を棄却した。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例